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新しい動物種同定検査の導入と解析結果について


<細胞由来動物種を同定するための新規検査の導入とその結果のお知らせ>

 理研細胞バンク事業開始以来、寄託細胞株の由来動物種を同定する検査法としては、2種類のアイソザイム(lactate dehydrogenase及びnucleotide phosphorylase)を解析する検査法を実施していました。これは、多種類の動物が共通して持っている同じ酵素でも動物種によって構造が異なり、電気泳動によって移動度が異なることを利用して、動物種を同定する生化学的な検査法です。しかし、2015年にこのアイソザイム検査では不十分な細胞株が存在することが判明しました。
    http://cell.brc.riken.jp/ja/23cln

 そこで、より精度が高い分子生物学的な検査として、ミトコンドリア遺伝子を対象とした種の同定法(ミトコンドリア遺伝子PCR同定検査)を導入し、2016年までに同検査を終了しました。この検査は、ミトコンドリアの3種類の遺伝子12S ribosomal RNA, 16S ribosomal RNAもしくはcytochrome bの塩基配列が動物種によって異なることを利用するものであり、動物種特異的なプライマーを設計して、PCR産物の有無で動物種を同定する方法です(文献1図1)(DNAシークエンス解析による塩基配列に基づく検査ではありません)。しかし、ミトコンドリア遺伝子PCR同定検査は、細胞バンクへの寄託が比較的多い又は利用者数が多い14種類の動物に関して開発されたものであり(文献1)、他の26種の動物に由来する61株の細胞には適用できませんでした。
 同定できる由来動物種を拡大するための検査法として、ミトコンドリアのcytochrome c oxidase subunit 1 (COI) 遺伝子(図1において緑色の枠を付けてある遺伝子)の約600bpをPCR増幅し、そのPCR産物のDNAシークエンスを行うことで動物種を同定する方法が開発されました(COIシークエンス検査)。同検査は、COIのシークエンス結果がNational Center for Biotechnology Information(NCBI:米国立生物工学情報センター)等の公開データベースに登録されている各種動物のCOI遺伝子配列のどれと一致するかによって、動物種を同定する方法です(文献2)。これは、DNAシークエンス解析技術の進歩に伴って、様々な動物種でCOIのシークエンス解析が実施され、その解析結果が公開データベースに登録されるようになったために、動物種同定への応用が可能となった検査方法です。そこで、ミトコンドリア遺伝子PCR同定検査では由来動物種を同定できなかった動物細胞について、2017年よりCOIシークエンス検査を導入しました。しかし、3種に由来する8株については、NCBI 等で公開されているCOIシークエンスの情報が不十分であり、COIシークエンス検査でも由来動物種の同定が不可能でした。そのようなケースでは他の遺伝子のシークエンス解析を検討し、今回は適用可能なcytochrome b遺伝子のシークエンス解析を実施しました。
 解析の結果、61株中57株については寄託者の登録情報と一致していました(表1)。しかし、下記の4株については由来動物種が寄託者の登録情報とは異なる結果を得ました。

① 【ティラピア由来細胞のHepa-T1細胞】(図2
 Hepa-T1細胞(RCB1156)は1995年3月に国外の研究者からティラピア由来細胞株として寄託を受けた細胞株です。
 図2に示しましたように、Hepa-T1細胞から得られたCOIシークエンスは、NCBIに登録されているティラピアCOIのシークエンスとは大きく異なり(一致率79.8%)、NCBIに登録されているウナギCOIのシークエンス及びウナギ由来のHepa-E1細胞(RCB1155)から得られたCOIシークエンスとは99.8%一致していました。
 寄託直後の細胞でも同じ結果でしたので(図2)、Hepa-T1細胞は寄託当初からウナギ由来の細胞株であったと判断されます。
 尚、Hepa-T1細胞とHepa-E1細胞は前述の国外の同じ研究者から同時に寄託を受けた細胞株であり、寄託者自身も気が付かないうちにHepa-T1細胞がHepa-E1細胞によって置換されたケースである可能性が高いものと考えます。こうした細胞の置換(取り違え等)の原因につきましては文献をご参照ください(文献3)。

② 【クワゴマダラヒトリ由来細胞のFRI-SpIm-1229細胞】(図3
 FRI-SpIm-1229細胞(RCB0281)は2000年10月に国内の研究者からクワゴマダラヒトリ(蛾の一種)由来細胞株として寄託を受けた細胞株です。
 クワゴマダラヒトリのCOIシークエンスは公開されている情報がありませんでしたが、図3に示しますように、FRI-SpIm-1229細胞から得られたCOIシークエンスは、ヨトウガ(蛾の一種)のCOIシークエンスと99.5%一致していました。
 寄託直後の細胞でも99.2%の一致でしたので(図3)、FRI-SpIm-1229細胞は寄託当初からヨトウガ由来の細胞株であった可能性が高いと推測されます。

③ 【カエル由来細胞のLAH1, LAH2細胞】(図4図5図6
 カエル由来のLAH1 (RCB1733)及びLAH2 (RCB1735)細胞は、同じくカエル由来のLAH3 (RCB1734) 細胞と同時に、2001年3月に国内の同じ研究者から寄託を受けた細胞株です。
 カエルにつきましてはCOIのシークエンス登録が不十分であったためにCOIシークエンス検査では判別が不可能でした。しかし、ミトコンドリアのcytochrome b遺伝子のシークエンスデータがNCBIに登録されており、cytochrome b遺伝子のシークエンス解析にて検査が可能であることが分かりましたので(文献4)、LAH1, LAH2, LAH3細胞につきまして同検査を実施しました。

LAH1細胞(図5②③
寄託者登録情報:野生型・トノサマガエル(トノサマガエル属トノサマガエル種)由来
LAH1細胞のcytochrome bシークエンスは、トノサマガエル属トノサマガエル種(図5の①)ではなく(一致率:74.5%)、ヒキガエル属ニホンヒキガエル種アズマヒキガエル亜種(図5の④)と最も高い相同性を示しました(99.5%の一致)

LAH2細胞(図6の②③)
寄託者登録情報:アルビノ・トノサマガエル(トノサマガエル属トノサマガエル種)由来
LAH2細胞のcytochrome bシークエンスは、トノサマガエル属トノサマガエル種(図6の①)ではなく(一致率:90.5%)、トノサマガエル属ダルマガエル種ナゴヤダルマガエル亜種のシークエンス(図6の⑥)と100%一致していました。

 上記のとおり、LAH1細胞とLAH2細胞は寄託者の登録情報とは異なるカエル由来であるという結果でした。

 図5③図6③⑤にも示してありますとおり、寄託直後の細胞でも全て同じ結果でしたので、LAH1細胞は寄託当初からヒキガエル属ニホンヒキガエル種アズマヒキガエル亜種、また、LAH2細胞は寄託当初からトノサマガエル属ダルマガエル種ナゴヤダルマガエル亜種であったと判断されます。

 一方で、LAH3細胞は、下記のとおり寄託者の登録情報と一致していました。

LAH3細胞(図6の④⑤)
寄託者登録情報:アルビノ・ナゴヤダルマガエル(トノサマガエル属ダルマガエル種ナゴヤダルマガエル亜種)由来
LAH3細胞のcytochrome bシークエンス④は、トノサマガエル属ダルマガエル種ナゴヤダルマガエル亜種のシークエンス(図6の⑥)と100%一致

 LAH2細胞はLAH3細胞と同じ結果でした。前述のように、これら3株は同じ研究者から同時に寄託を受けた細胞株であり、寄託者自身も気が付かないうちにLAH2細胞はLAH3細胞によって置換されたケースである可能性を否定はできません。

 以上のように、4株の由来動物種が寄託者情報と異なることが判明いたしました。これまで発信してきた情報と異なる結果となりましたこと、お詫び申し上げます。なお、これら4株を提供した全ての利用者には、陳謝と説明のご連絡を差し上げております。

【今後の対応につきまして】
 既に提供している細胞の由来動物種の同定検査は終了しました。ヒト細胞については個人識別検査であるSTR検査(文献3)を、マウス細胞については系統識別検査であるSSLP検査(文献5)をルーチン検査として実施しており、これらは動物種の同定も兼ねた検査になっています(種が異なると結果が得られません)。今後のヒト、マウス以外の動物種の寄託細胞につきましては、ミトコンドリア遺伝子PCR検査を実施し、同法で判別できない動物種についてはCOIシークエンス検査を行い、更にCOIシークエンス検査でも判別できない動物種については、日々データが更新されるNCBI等の公開データベースを調査しながら、cytochrome b遺伝子のシークエンス解析等の該当動物種に特異的な検査を検討して、動物種の同定に努めていきたいと考えております。
 生物科学分野は日進月歩の発展を遂げており、COI遺伝子ならびにcytochrome b遺伝子のシークエンス検査が可能となったのも、シークエンス解読技術の進歩によって低コスト化が図られ、様々な動物種のゲノム・遺伝子配列情報が集積されたことによるものです。今後も、細胞材料の品質管理方法に、こうした最新の技術と情報を積極的に導入し、より高品質な細胞材料の提供に努めていく所存です。
 引き続き、理研バイオリソース研究センターの事業に対してご理解とご支援を賜りたく、宜しくお願い申し上げます。

【文献】
1. Ono, K. et al. Species identification of animal cells by nested PCR targeted to mitochondrial DNA. In Vitro Cell Dev Biol Anim 43: 168-175 (2007)
2. Almeida, J.L., Cole, K.D., and Plant, A.L. Standards for Cell Line Authentication and Beyond. PLoS Biol 14: e1002476 (2016).
3. Yoshino, K. et al. Essential role for gene profiling analysis in the authentication of human cell lines. Hum Cell 19: 43-48 (2006)
4. Huang, Z., Yang, C., and Ke, D. DNA barcoding and molecular phylogeny in Ranidae. Mitochondrial DNA A DNA Mapp Seq Anal 27: 4003-4007 (2016)
5. Yoshino, K. et al. Development of a simple method to determine the mouse strain from which cultured cell lines originated. Interdisciplinary Bio Central 2: Article No. 14 (open access journal) doi: 10.4051/ibc.2010.2.4.0014 (2010)

【お問合せ先】
〒305-0074 茨城県つくば市高野台 3-1-1
理化学研究所バイオリソース研究センター細胞材料開発室・室長
中村幸夫
E-mail: yukionakbrc.riken.jp
電話:029-836-9139
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