AZ521細胞についてのお知らせ

平素より理化学研究所バイオリソースセンター細胞材料開発室(理研細胞バンク)をご利用いただき、誠にありがとうございます。

AZ521細胞(理研登録番号RCB2087)を胃癌由来細胞株としてご提供いたしましたが、当該細胞が胃癌由来細胞株ではないことが最近の解析により判明いたしました。急ぎご連絡を差し上げるとともに、深くお詫び申し上げる次第です。先生のご研究に大きな影響を与えなかったことを祈るばかりです。

ご提供したAZ521細胞につきましては、特段の理由があり引き続きご利用を希望される場合を除き、ご利用を中止していただきたくお願い申し上げます。

AZ521細胞(理研登録番号RCB2087)は、東北大学加齢医学研究所医用細胞資源センター(東北大細胞バンク)の細胞バンク事業の終了に伴い、2004年12月に同センターから理研細胞バンクに移管を受けて提供を実施してきた細胞です。最近実施した検査により、AZ521細胞のマイクロサテライト遺伝子多型解析(Short Tandem Repeat (STR)多型解析)の結果が、米国細胞バンクATCCが提供しているHuTu 80細胞(十二指腸癌由来細胞株)のSTR多型解析結果と完全に一致しており、当室から提供していたAZ521細胞は取り違えが起きた細胞であるという結論に達しました。経緯および検査の詳細につきましては次ページをご覧下さい。

多大なご迷惑をおかけする結果となりましたことを、深くお詫び申し上げます。誠に申し訳ございませんでした。ご理解とご寛容の程、何卒宜しくお願い申し上げます。 当室では他の細胞株も多数保有しております。AZ521細胞の代替細胞として他の細胞株の利用をご希望の場合は、期限を設けず無償でご提供いたしますので、下記の返信欄にご記入の上、ご連絡いただきますようお願い申し上げます。

当室が提供したAZ521細胞を使った研究成果を学術誌等に発表されており、編集局等への説明が必要な場合には、当室より事情説明の文書を送らせていただきますので、ご遠慮なくcellqa.brcriken.jpまでお申し付けください。

【誤認細胞の蔓延とSTR多型解析について】
研究コミュニティで利用されている細胞株の中には、他の細胞株との取り違えや他の細胞の混入等の問題があることが古くから指摘されていました(文献1,2)。典型例が、HeLa細胞(世界で最初に樹立された子宮頸癌細胞株であり、現在でも世界中で汎用されている細胞株)との取り違えであり、独自細胞と信じて使っていた細胞が実はHeLa細胞であった、というようなケースが多数存在しました。しかし、これをハイスループットに解析できる手段がありませんでした。こうした事実を踏まえ、世界中の主要細胞バンクが連携協力し、個人識別に応用されているSTR多型解析を細胞株の識別にも応用できないかを検討し、応用可能であることを見出しました(文献3)。現在では、世界中の主要細胞バンクが共同で、STR多型解析の結果に関する世界共通のデータベース構築を開始しており、その途上にあります(文献4,5及び以下URL)。
http://standards.atcc.org/kwspub/home/the_international_cell_line_authentication_committee-iclac_/

当室では、世界中の主要細胞バンクと時をほぼ同じくして、2004年4月よりSTR多型解析検査を導入し、その後のルーチン検査としております。当室でSTR多型解析を導入して全ヒト細胞株の解析を行った結果は、当室の寄託細胞の約10%が誤認細胞でありました(文献6)。

【AZ521細胞の経緯について】
AZ521細胞(理研登録番号RCB2087)を東北大細胞バンクから理研細胞バンクに移管を受けた時点でSTR多型解析を行い、理研細胞バンクの他のどのヒト細胞株とも異なる独自の細胞株と判断され、提供を行ってきました。

AZ521細胞は、日本人研究者によって日本で樹立され、1989年に論文発表されている胃癌由来の細胞株とされてきました(文献7)。一方、HuTu 80細胞の樹立は1968年であり、1973年にATCCに寄託された十二指腸癌細胞株です(文献8:PubMed検索にて最も古い利用論文)。従いまして、AZ521細胞が取り違えられた細胞であるという結論に達しました。

AZ521細胞は、東北大細胞バンク(後に理研細胞バンクに移管)のみでなく、医薬基盤研究所JCRB細胞バンクにも寄託されています(登録記号JCRB0061)。そして、東北大細胞バンク(理研細胞バンク)とJCRB細胞バンクのAZ521細胞は両者ともATCC が提供しているHuTu 80細胞のSTR多型解析結果と完全に一致していました。従いまして、東北大細胞バンク及びJCRB細胞バンクのAZ521細胞は、寄託された時点で既に取り違えが存在していたものと考えられます。

樹立から細胞バンクに寄託するまでのどこかの過程で不作為に取り違えが発生してしまったと推察しております。しかし、現在となっては、この取り違えがどの段階でどのようにして発生したのかを確認することは不可能であります。ご理解とご寛容を頂ければ幸甚です。当バンクでは、AZ521細胞の登録を抹消することといたしました。

大変なご迷惑をおかけする事態となりましたこと、心よりお詫び申し上げます。本件に関するご質問やご要望等がございましたら、ご遠慮なくcellqa.brcriken.jpにご連絡いただきますようお願い申し上げます。

当室では、二度とこのようなことが起こらないように、他の細胞バンクとも協力し、厳格な品質検査を実施し、研究者の皆様に安心してご利用いただける高品質のリソースを提供してゆく所存です。引き続き、理研バイオリソースセンターの事業に対してご理解とご支援を賜りたく、よろしくお願い申し上げます。

【文献】

  1. Cases of mistaken identity. Science 315: 928-931 (2007)
  2. Identity crisis. Nature 457: 935-936 (2009)
  3. Masters, J.R. et al. Short tandem repeat profiling provides an international reference standard for human cell lines. Proc Natl Acad Sci USA 98: 8012-8017 (2001)
  4. Katsnelson, A. Biologists tackle cells’ identity crisis. Nature 465: 537 (2010)
  5. Masters, J.R., et al. End the scandal of false cell lines. Nature 492: 186 (2012)
  6. Yoshino, K. et al. Essential role for gene profiling analysis in the authentication of human cell lines. Hum Cell 19: 43-48 (2006)
  7. Imanishi, K. et al., Production of transforming growth factor-alpha in human tumour cell lines. Br J Cancer 59: 761-765 (1989)
  8. Schmidt, M. et al., Gastrointestinal cancer studies in the human to nude mouse heterotransplant system. Gastroenterology 72: 829-837 (1977)

 



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